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新井浩文
ゆれる 西川美和
- 2006-09-05 (火)
- 劇場映画
Rating: 



注)思いっきりネタバレしてます。
注)かなり長文です。
オダギリジョー演じる弟と、香川照之演じる兄との関係を中心とした構成の、ある種サスペンスな要素も含んだドラマ作品。
とにかく香川照之が気持ち悪くて良い。
誰もが生理的に受け付けない気持ち悪さを、見事に体現している。
常に迷いを孕んだ仕草、薄く笑みの張りついた表情、そして何より言葉遣いが不自然なくらい頼りなくて、絵に描いたようなモテない男。
だからこそ、その頼りなさにひそむ本音が露になっていく様は恐ろしいものがあった(特に、兄弟が初めて拘置所で面会したときの迫力はスゴい)。
劇中でも弟を惑わすことになるその本性こそ、本作のキモなのだと思う。
舞台となった町の規模は小さく、住民たちがそれぞれどこかで不信感を抱きながら、それでも協力して(いるように見せかけて)暮らしていかざるを得ないということは、映像からも兄の言葉からも容易に想像がつく。
兄を初めとして、町に残る人々は「本当は信じられないものでも、信じていることにする」ことによって日々の生活を送っている。
対して東京へ出た弟は、「最初から疑って最後まで信じない」。
このような対比も非常に印象的だった。
劇中の裁判は、物的証拠がまったくない中で、被告の自白と周辺の人物の証言によって成り立っている。
(本編には弟しか出てこなかったが、スタンドのスタッフや被害者の家族も事情聴取くらいしたはずだ)
そして、それぞれの記憶は曖昧なまま移り変わっていく。
意識的か無意識か、自発的か周りからの影響か、様々な要因で微妙にその輪郭は変化するのだ。
そして、歪な記憶が裁判の行方を左右し、決定する。
(多少は誇張しているかも知れないが、物的証拠よりも自白が重んじられるのは昔から指摘され続けている悪しき伝統であることに変わりはない)
裁判制度への問題提起、ということまでは流石に考えていないだろうが、記憶が如何に不確かなものであるかを示すには充分な展開だった。
戸惑いや驚き、不信、不安、焦り、その他あらゆる要素が入り混じることで、いとも容易く記憶は変形し、ある人の運命を決定付けてしまう。
最後、父親がボケてしまったのも、そうした記憶に対する危うさを表す象徴だったのかも知れない。
兄弟2人がそれぞれどういう気持ちで言葉を交わしていたのか、それはよく分からない。
弟が自己保身のことを考えていたのは間違いないだろうが、それだけだったとも考えにくい。
兄に至っては、自分のためなのか、弟のためなのか、被害者のためなのか、あるいは本当にどうでも良くなってしまったのか、まったくもって見当がつかない。
兄が時折見せた笑顔、その意味合いは文脈の読み方次第で変わってくる。
正直なところ、一つ一つの場面において僕はそれらを読みあぐねている。
ただ、最後に弟へ見せた笑顔については、一つのストーリーが浮かんだ。
出所してバスに乗ろうとしていた兄。
行き先に「浜松町」と書かれたバスが来るのを見つけ、停留所へと走る。
そのとき彼は、人生の最初にして最大のチャンスだと思っていたのかも知れない。
どこへ行くつもりだったのか、そもそも行くあてはあったのか、それは分からないけど、バスの行き先やそれまでの言動から考えて、東京へ行くつもりだったんじゃなかろうか。
生まれて初めて、何の縛りや足枷も無い状態になって、つまり「自由」になって憧れの地へ向かうことが出来る、そんな希望を抱いていたんじゃなかろうか。
そこへ弟がやってきた。やってきてしまった。しかも家へ帰ろうと言う。そして兄は笑った。
「ああ、やっぱり来たんだな」
「お前はやっぱり俺から何もかも奪っていくんだな」
そんなことを言っているような、長年張りついていた偽りの表情と酷似していたその笑顔。
本当のところは分からない。
もしかしたら安堵の表情だったかも知れない。
でも、僕にはそんなハッピーエンドであるようには見えなかった。
色々考える要素が多く、観た人の中でも共通の認識を得るのは難しい作品だと思う。
スタンドのスタッフが弟に言った、「ミノルさんとお父さんを返して下さいよ」というのも、そのまま捉えれば2人に対する信頼が表れている言葉なのだけど、角度を変えればものすごく嫌らしいセリフのように解釈することも出来たりするし。
「蛇イチゴ」のような映像の清らかさは保ちつつも、というかだからこそ、そのウラ(もしくは内面)にある湿った部分が強調されていた。
こういう作品がもっと売れるようになって欲しい、と思う。
−+−+−+−
キムにぃはちょっとワザとらしかったかもなぁ。
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